※この記事には、大河ドラマ『豊臣兄弟!』第29回「天下への道」のネタバレがあります。
第29回「天下への道」では、山崎の戦いに勝利した秀吉(池松壮亮)と小一郎(仲野太賀)が、いよいよ天下へ向かって歩み始めました。
ただ、今回描かれたのは、単純な勝利や秀吉の覚醒ではありません。
明智光秀(要潤)の最期と、与一郎(大西利空)の死。
二人の死を経験したことで、これまで人のよさや家族思いなところが魅力だった豊臣兄弟が、少しずつ変わり始めます。
特に印象に残ったのは、秀吉と光秀の最後の会話です。
光秀が本当に仕えたかった相手は、信長ではなく足利義昭(尾上右近)だった。
その告白を聞き、これまで描かれてきた信長との関係を振り返ると、このドラマの光秀がなぜ本能寺の変を起こしたのか、ようやく一本につながったように感じました。
※本記事では、ドラマで描かれた光秀の動機について感想を書いています。史実上の本能寺の変の原因を断定するものではありません。
前回、第28回「急げ!秀吉」では、信長が生きていると信じた秀吉が毛利との和睦を急ぎ、中国大返しを始めました。
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第29回「天下への道」のあらすじ
織田信孝(結木滉星)から、明智討伐の差配を任された秀吉。
秀吉は光秀を生け捕りにし、信長を討った理由を直接確かめようと考えます。
しかし、信長を失った織田勢の足並みはそろいません。高山右近(市川知宏)らが先走って明智軍へ攻め込み、山崎の戦いが始まります。
小一郎は援軍として戦場へ向かい、初陣の与一郎は信孝のもとに残ることになりました。
ところが与一郎は、刺客から信孝を守って負傷。その傷がもととなり、命を落としてしまいます。
山崎の戦いに敗れた光秀は捕らえられ、秀吉と最後の対話を交わしました。
光秀が本当に仕えたかったのは、足利義昭だった
今回、特に印象に残ったのが、秀吉と光秀の最後の会話です。
光秀は、自分が心から仕えたかった相手は、生涯で足利義昭ただ一人だったと明かしました。
この言葉を聞いて、光秀が信長を討つまでの流れに、ようやく納得できた気がします。
ただし、義昭から拒絶されたことだけが、突然、光秀を本能寺の変へ向かわせたわけではありません。
これまでの光秀は、信長のもとで働きながらも、かつての主君である義昭への思いを捨てきれずにいました。
信長に能力を認められ、重要な役目を任される一方で、自分が本当に実現したかったのは、義昭を中心とする世だったのだと思います。
信長に仕えていても、光秀の心まで信長のものになったわけではなかった。
そのズレが、少しずつ大きくなっていったように見えました。
長宗我部との約束を翻されたことが、信長への不信につながった
第25回「変事の予兆」では、信長が長宗我部元親(磯部寛之)との約束を翻しました。
光秀は、信長と元親の間を取り持ってきた人物です。
それにもかかわらず、信長は方針を変更し、元親を説き伏せる役目を光秀へ押しつけます。
信長にとっては、天下一統へ向けた政治的な判断だったのでしょう。
しかし光秀からすれば、自分が時間をかけて築いてきた信頼関係も、信長の一言で無意味にされてしまいます。
しかも、その後始末まで自分で引き受けなければならない。
光秀が怒ったのは、単に面目を潰されたからではないと思います。
約束や信頼よりも、信長の考えが優先される。
どれだけ忠実に働いても、信長の気持ちが変われば、これまで積み重ねてきたものまで簡単に壊されてしまう。
その状況が続くなかで、光秀は「このまま信長に従ってよいのか」と考えるようになったのではないでしょうか。
信澄が偽造した書状と、義昭本人からの拒絶
そんな光秀のもとへ、義昭の名で「信長を討て」と記された書状が届きます。
光秀は、義昭も信長を討つことを望んでいると受け止めたはずです。しかし、この書状は義昭本人が送ったものではありません。父・信行を信長に殺された織田信澄が、義昭の御内書を装って偽造したものでした。
光秀は、義昭の本心ではない言葉に背中を押されかけていたことになります。
それでも光秀は、すぐに信長を討ったわけではありません。第27回「本能寺の変」では、斎藤利三を通じて義昭の真意を確かめようとします。
しかし、義昭本人から返ってきたのは、自分をこれ以上巻き込まないでほしいという拒絶の言葉でした。
信長への不信を募らせる一方で、義昭が自分を必要としていると信じたかった光秀。ところが、信長討伐を求めた書状は偽物で、本当の義昭からは突き放されてしまいます。
光秀は、信長のもとにも、義昭のもとにも、自分の居場所を見いだせなくなりました。
だから本能寺の変は、義昭の命令に従って起こした謀反ではありません。信長への不信、長宗我部との約束を反故にされた怒り、義昭への執着、そして本人から拒絶された絶望。それらが重なった末の決断だったように感じます。
第29回で光秀が「本当に仕えたかったのは義昭だけだった」と語ったことで、偽造された書状に揺れ、最後には義昭本人から見放されても、その思いを捨てられなかった光秀の苦しさがつながりました。
最後まで義昭への思いを捨てなかった光秀
義昭から拒絶されたあとも、光秀の中から義昭への思いが消えたわけではありませんでした。
信長を討ち、自分が天下を取る。
その先に、もう一度義昭を中心とした世をつくろうとしていたのかもしれません。
光秀自身が天下人になりたいというより、自分が本当に仕えたい相手のために力を手に入れようとした。
少なくとも、今回の光秀の言葉からは、そのように感じました。
義昭から必要とされていないと分かっても、それでも義昭の世を諦められない。
その一途さには格好よさを感じる一方で、自分の人生を義昭に預け続けた光秀の切なさも残りました。
光秀には、義昭とは関係のない自分自身の望みがあったのでしょうか。
信長を討ったあとも、自分がどのような世をつくりたいのかではなく、義昭へ仕えることを語った光秀。
最後まで自分のためには生きられなかった人物だったように思います。
光秀と秀吉は、同じ言葉から別の道を選んだ
光秀の言葉を聞いた秀吉は、自分にとっての主君も信長ただ一人だったと、改めて気づいたのではないでしょうか。
信長が亡くなったからといって、その息子である信雄や信孝が、秀吉にとって新しい主君になるわけではありません。
信長の血を受け継ぐことと、信長が目指したものを受け継ぐことは別です。
だから秀吉は、自分が信長の思いを継ぐと宣言しました。
光秀と秀吉は、どちらもただ一人の主君へ強い思いを抱いていました。
しかし、主君を失ったあとの選択は正反対です。
光秀は、義昭への思いを捨てられないまま信長を討ち、自分の居場所まで失いました。
秀吉は、信長を失った悲しみを抱えながら、その思いを自分が引き継ぐことで前へ進もうとします。
光秀との最後の会話は、謀反の理由を明かすだけでなく、秀吉が天下へ進む理由を見つける場面でもあったのだと思います。
秀吉が「上様の思いを継ぐ」と決めた瞬間
今回、池松壮亮さんの演技からも、秀吉が変わり始めたことが伝わってきました。
光秀と向き合う秀吉は、これまでのように感情のまま動く人物ではありません。
信長を討った光秀への怒りを抱えながらも、なぜ信長を討ったのかを最後まで確かめようとします。
そして、光秀の言葉を聞いたうえで、自分が信長の思いを継ぐと決めました。
その宣言は、信長への忠義を示すだけではありません。
信雄や信孝に仕えるのではなく、自分が天下へ進むという決意にも聞こえました。
目つきや表情、立ち姿まで、それまでの秀吉とは雰囲気が違います。
信長を救おうと必死に走っていた秀吉から、信長のいない世で自分が何をするのかを決めた秀吉へ。
光秀との対話を通して、秀吉が一段階変わったように感じました。
与一郎の死で、小一郎も変わっていくのか
秀吉が天下へ進む理由を見つけた一方で、小一郎は与一郎を失いました。
初陣だった与一郎は、刺客から信孝を守って負傷します。
家族が心配するなか、与一郎はその傷がもとで亡くなってしまいました。
第28回では、こんなときだからこそ父の力になりたいと、長浜から駆けつけた与一郎。
その直後の第29回で命を落とすとは思っていませんでした。
これまで小一郎は、家族を大切にし、人の気持ちを考えながら兄を支えてきました。
しかし天下を目指す道では、家族を守ろうとしても、戦によって失うことがあります。
与一郎の死は、小一郎にとって、天下取りが家族の幸せだけにつながるものではないと突きつける出来事だったと思います。
小一郎は、この死をきっかけに変わっていくのでしょうか。
人のよさや家族思いなところを残したまま兄を支えるのか。
それとも、秀吉と同じように、天下取りを優先する人物になっていくのか。
今までの「人のいい兄弟」ではいられなくなる予感がしました。
あさひと甚兵衛の夫婦を見てつらくなった
与一郎が負傷したあと、家族が彼を心配して、それぞれ物を持ち寄る場面がありました。
そこで目に留まったのが、あさひ(倉沢杏菜)と甚兵衛(前原瑞樹)の夫婦です。
二人で与一郎を心配する姿からは、夫婦の仲のよさが伝わってきました。
しかし、その後の歴史を知っていると複雑です。
のちにあさひは、秀吉と家康の関係を結ぶため、徳川家康(松下洸平)へ嫁ぐことになります。
今は仲のよい夫婦として暮らしている二人も、やがて秀吉の天下取りに利用され、引き離されてしまう。
今回の穏やかな姿を見たことで、今後の展開が余計につらく感じました。
信長の思いを継ぎ、天下を目指すと決めた秀吉。
その決意は格好よく見えますが、これから進む道では、自分の家族まで政治のために利用することになります。
そのとき小一郎は、兄の判断を止めるのでしょうか。
それとも、自分も天下取りのために受け入れるのでしょうか。
まとめ|光秀の最期が、秀吉を天下へ向かわせた
第29回「天下への道」で最も印象に残ったのは、秀吉と光秀の最後の会話でした。
光秀が信長を討った理由は、義昭から拒絶されたことだけではありません。
信長のもとで働きながらも、心から仕えたい相手は義昭だったこと。
長宗我部との約束を信長に翻され、これまで築いてきた信頼を壊されたこと。
さらに、義昭の名を使った偽の書状によって、信長を討つ決断を揺さぶられたこと。
そして、最後には義昭からも突き放されたこと。
それまで光秀の中に積み重なっていた迷いや不信、忠義、絶望がつながった先に、本能寺の変があったのだと思います。
一方の秀吉は、光秀の言葉を聞いたことで、自分にとっての主君が信長ただ一人だったと気づきました。
光秀が過去の主君への思いから信長を討ったのに対し、秀吉は亡き信長の思いを引き継ぎ、前へ進む道を選びます。
そして小一郎は、天下への道を歩み始めた日に、与一郎を失いました。
光秀の最期と与一郎の死。
二人の死を背負い、豊臣兄弟がこれまでとは違う存在へ変わり始めた回だったと思います。
次回、第30回「清須会議」では、信長の後継者を決める話し合いが始まります。
「上様の思いを継ぐ」と決めた秀吉が、織田家の重臣たちを相手にどのように動くのか楽しみです。
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