※この記事には、第31回「これで、お別れにございます」のネタバレが含まれます。
『豊臣兄弟!』第31回で特に気になったのは、秀吉が小一郎に嘘をついていたことです。
秀吉は、諸将への取り成しは自分たちに任されたと、小一郎に説明していました。
しかし実際には、丹羽長秀や池田恒興たちの了承を得ないまま、諸将の所領を決め、各地の大名へ書状を送っていました。
小一郎から問い詰められた秀吉は、真実を話せば止められると思ったから言わなかったと認めます。
小一郎の意見を軽く見ていたのではありません。
むしろ、小一郎に止められたら自分も進めなくなると分かっていたからこそ、あえて嘘をついた。
秀吉は小一郎との絆より、信長の意志を継ぐことを優先し始めたように見えました。
ただ、秀吉と小一郎が望む未来は、今も同じなのだと思います。
戦がなく、家族や民が安心して暮らせる世の中。
秀吉は、その世界を実現するためには、自分が信長の意志を継いで天下を一つにするしかないと考えたのではないでしょうか。
目指す先は同じでも、そこへ向かうための手段と覚悟に差が生まれ始めた回でした。
前回、第30回「清須会議」では、事前の根回しを重ねていた秀吉と小一郎が、想定外の出来事を勝ち筋へ変えました。
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第31回「これで、お別れにございます」のあらすじ
清須会議後、秀吉(池松壮亮)の行動に対する反発が、織田家中で強まっていきます。
市(宮﨑あおい)は秀吉に対抗するため、柴田勝家(山口馬木也)と再婚。
さらに、信孝(結木滉星)が幼い三法師を岐阜へ連れていったことで、織田家の主導権をめぐる争いが激しくなります。
小一郎(仲野太賀)は、三法師を安土へ戻すため、丹羽長秀(池田鉄洋)らへ協力を求めます。
ところが、長秀から秀吉が宿老たちの了承を得ないまま、諸将の所領を決めていることを知らされました。
小一郎は秀吉を問い詰めますが、秀吉は信長の意志を継ぐため、自分のやり方で進むことをやめません。
その後、小一郎は信長の葬儀を開き、対立する者たちと話し合う場を作ろうとします。
しかし、秀吉たちが招かれないまま、市を喪主とした信長の法要がすでに執り行われていました。
秀吉は、今度は自ら大徳寺で盛大な葬儀を行います。
一方、小一郎は市のもとを訪ね、今ならまだ引き返せると訴えますが、市から今の秀吉を支える覚悟があるのかを問われました。
諸将の所領をめぐり、小一郎に嘘をついた秀吉
小一郎は丹羽長秀から、秀吉が勝手に諸将の所領を決め、多くの大名へ書状を送っていることを知らされます。
秀吉は、諸将への取り成しを自分たちに任されたと話していました。
その言葉を信じていた小一郎にとって、宿老たちの了承を得ていなかったことは初耳でした。
小一郎が「自分を騙したのか」と問い詰めると、秀吉は答えます。
「真のことを言えば、お前は止めたであろう?」
実際、小一郎は、ほかの宿老たちを怒らせて孤立するような行動には反対しました。
秀吉は、小一郎なら反対すると分かっていたのです。
さらに秀吉は、小一郎に止められたら自分も実行できなかったため、最初から真実を伝えなかったと明かします。
ここが今回、最も印象に残りました。
小一郎の言葉に聞く価値がないと思っていたなら、秀吉は正面から反対を押し切ればよかったはずです。
それができなかったのは、小一郎の言葉が、今も秀吉にとって大きな意味を持っているからでしょう。
小一郎を信用していないからついた嘘ではありません。
小一郎に止められたくなかったからついた嘘でした。
小一郎との絆より、信長の意志を継ぐことを優先した秀吉
これまでの秀吉と小一郎は、二人で相談しながら多くの困難を乗り越えてきました。
しかし今回は、秀吉が先に進む道を決め、小一郎には本当のことを話しませんでした。
秀吉は小一郎との絆よりも、信長の意志を継ぐことを優先し始めたように見えます。
だからといって、小一郎の願いを捨てたわけではないと思います。
小一郎が望んでいるのは、戦がなく、家族や民が安心して暮らせる世の中です。
秀吉は、その世界を実現するためには、誰かが天下を一つにしなければならないと考えているのでしょう。
そして、信長が成し遂げられなかった天下一統を、自分が継ごうとしています。
二人が目指している未来は、今も同じなのかもしれません。
違うのは、そこへたどり着くための方法です。
小一郎は、できる限り話し合いによって対立を収めようとします。
一方の秀吉は、世の中を変えるためなら、宿老たちの了承を得ずに行動し、小一郎に嘘をつくことも受け入れました。
小一郎が望む未来を実現するために、小一郎が反対する方法を選ぶ秀吉。
そこに、今の豊臣兄弟の難しさを感じました。
信長本人に別れを告げ、その意志を継いでいく
大徳寺での葬儀を終えた秀吉は、信長から授かった草履を手にし、
「これで、お別れにございます」
と告げました。
秀吉が別れを告げたのは、信長本人だったのだと思います。
秀吉は信長のことを心から慕っていました。
何者でもなかった自分を見いだし、ここまで引き上げてくれた主君です。
しかし、信長が亡くなったからといって、信長が目指していたものまで終わらせるつもりはありません。
信長が成し遂げられなかった天下一統を、今度は自分が継いでいく。
「これで、お別れにございます」という言葉には、信長の死を受け入れ、自分が先へ進む秀吉の覚悟が表れていたように感じました。
信長を弔う思いも、政治的な狙いも本心だった
秀吉が大徳寺で行った信長の葬儀には、政治的な意味もあったはずです。
盛大な葬儀を執り行えば、信長の後を継ぐ存在として自分の名を広く示すことができます。
実際、史実でも秀吉が大徳寺で行った法会は、自らが信長の後継者であることを示す意味を持っていたと考えられています。NHK財団・ステラnet
ただ、秀吉が信長を弔う気持ちまで嘘だったとは思いません。
信長を心から慕っていたから、盛大に弔いたかった。
そして信長を慕っていたからこそ、その意志を自分が継ぎたかった。
信長への思いと、天下へ進むための政治的な狙い。
秀吉のなかでは、その二つが矛盾することなくつながっていたのではないでしょうか。
市は、秀吉の覚悟を見抜いていた
今回の市は、本当に格好よかったです。
市は、秀吉が信長に成り代わろうとしていることも、そのためなら織田家を滅ぼす覚悟があることも見抜いていました。
秀吉の嘘や作り話を何度も聞いてきた市だからこそ、その言葉の奥にある狙いが分かるのでしょう。
市は秀吉のことを理解できていないから対立しているのではありません。
秀吉が何を目指し、どこまでやろうとしているのかを理解したうえで対立しています。
だからこそ、小一郎の覚悟が秀吉に追いついていないことも見抜いていました。
秀吉の天下取りを支えるということは、いずれ市や勝家と戦うことでもあります。
小一郎は兄を支えると決めていますが、大切な人たちを倒す未来までは受け入れられていません。
秀吉はすでに、そこまで覚悟しています。
市から突きつけられたのは、小一郎がまだ直視できていなかった天下取りの現実だったのだと思います。
小一郎よりも今の秀吉を理解している黒田官兵衛
黒田官兵衛(倉悠貴)が、秀吉の考えを理解して動いていたことも印象に残りました。
官兵衛は信雄(山脇辰哉)を秀吉側へ引き入れ、信孝と戦うための大義名分を作ります。
今の秀吉に何が必要なのかを、小一郎よりも官兵衛のほうが理解しているように見えました。
小一郎は、兄の人間らしさや弱さを誰よりも知っています。
しかし、天下人へ変わり始めた秀吉の政治的な考えには、まだ気持ちが追いついていません。
一方の官兵衛は、秀吉の感情ではなく、天下を取るために必要な一手を理解して動いています。
小一郎と官兵衛が、それぞれどのような役割で秀吉を支えていくのかも気になります。
おわりに
第31回「これで、お別れにございます」は、秀吉が信長本人に別れを告げ、その意志を自分が継ぐ覚悟を示した回でした。
その覚悟は、小一郎に対する嘘にも表れています。
秀吉は、小一郎の意見を軽く考えていたから嘘をついたのではありません。
小一郎に止められたら、自分も進めなくなると分かっていたから、本当のことを話しませんでした。
それでも先へ進んだのは、信長の意志を継いで天下を一つにすることが、最終的には小一郎の望む世界にもつながると考えていたからかもしれません。
戦がなく、家族や民が安心して暮らせる世の中。
秀吉と小一郎が目指す未来は同じでも、そのために選ぶ手段と覚悟には差が生まれ始めています。
次回、第32回は「賤ケ岳の決闘」。
特に気になるのは、前田利家(大東駿介)がどのような思いで柴田勝家を裏切る決断をするのかです。
勝家を「親父様」と慕いながら、秀吉とも長い関係を持つ利家。
その利家が、最後に何を選ぶのかを見届けたいと思います。
そして、その先に待つ市と勝家の結末。
二人の関係がどのようなラストシーンを迎えるのかも、今から気になります。